不妊治療はいつから始める?
タイミングと治療の流れを解説

TIMING

不妊治療はいつから始める?

不妊とは、「子どもを望み、性生活を送っているにもかかわらず、1年以上妊娠しない状態」と定義されています。そのため、不妊治療を始めるタイミングの一般的な目安として、妊娠を希望しているにもかかわらず1年以上妊娠しない場合は、不妊治療を検討することをおすすめします。

特に、女性の年齢が35歳以上の場合、妊娠の可能性が低下するといわれています。6ヵ月間の試みで結果が出ない場合には、早めに専門家に相談するとよいでしょう。早期の検査や治療は、妊娠の可能性を高めるだけでなく、心の負担を軽減することにもつながります。

不妊になる主な要因【男女別に紹介】

不妊の原因は男女それぞれに存在し、複数の要因が絡むこともあります。WHO(世界保健機関)による不妊症の原因調査の結果は、以下のグラフのとおりです。

こども家庭庁「妊娠・不妊の基礎知識」
出典:こども家庭庁「妊娠・不妊の基礎知識」

ここでは、特に多い要因を男女別に紹介します。

女性に多い不妊の要因

  • 排卵因子

    正常な排卵がおこなわれない場合、妊娠の可能性が低下します。ホルモンバランスの異常がこの問題の根本にあることが多く、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など卵巣機能に関連するホルモン(例:FSH、LH、エストロゲン、プロゲステロン)の不均衡が影響を及ぼします。

  • 卵管因子

    卵管は、卵子と精子が出会う場所であり、受精がおこなわれる重要な役割を果たしています。感染症や内膜症、卵管の癒着などによって卵管が狭まったり、完全に閉じたりすると、精子が卵子に到達することができず、妊娠が成立しにくくなります。

  • 頸管因子

    頸管は子宮と膣をつなぐ部分で、排卵時には粘液が分泌されます。この粘液は精子が子宮内へ移動するのを助けるため、正常な妊娠には欠かせない要素です。しかし、粘液の量が不足すると、精子が十分に移動できず受精が難しくなります。粘液の質が悪化することも、精子の生存率や運動能力に影響を与える可能性があります。

  • 子宮因子

    子宮は受精卵が着床し、妊娠が成立するための重要な器官であり、その構造や機能に異常があると妊娠が難しくなります。子宮因子の代表的な問題には、子宮筋腫やポリープがあります。子宮筋腫は、子宮の筋肉組織から発生する良性の腫瘍であり、サイズや位置によっては精子が卵子に到達するのを妨げたり、受精卵が子宮内膜に着床するのを阻害したりすることがあります。また、ポリープも子宮内膜に発生する良性の腫瘍であり、これも着床の妨げとなることがあります。

  • 免疫因子

    正常な妊娠には、母体の免疫系が受精卵を適切に受け入れることが重要ですが、免疫異常があると妊娠が難しくなることがあります。免疫異常によって抗精子抗体が生成されると、精子に対して攻撃的に働きかけ、精子の運動を妨げたり、精子が卵子に到達するのを阻害したりする可能性があるのです。抗精子抗体が存在する場合、受精が難しくなり、妊娠の可能性が低下してしまうでしょう。

  • 原因不明不妊

    原因不明不妊は、さまざまな検査をおこなっても、明確な原因が特定できない場合を指します。いくつかの要因が考えられますが、特に加齢による卵子の質の低下が重要な要素だと考えられています。女性の卵子は年齢とともにその質が低下し、受精や着床の成功率低下につながります。

男性に多い不妊の原因

  • 造精機能障害

    造精機能障害とは、精液中の精子の数が少なかったり、精子の運動率が低下している状態のことです。造精機能障害の原因は多岐にわたり、遺伝的要因やホルモンの不均衡、感染症、化学物質などの環境因子、喫煙や飲酒などの生活習慣が影響を与えることがあります。正常な精液には、一定数以上の精子が含まれており、これらの精子が健康で運動能力が高いことが妊娠の成功に不可欠です。

  • 精路通過障害

    精路通過障害は、精子が生成されているにも関わらず、その通り道である精路が閉塞しているために、精液中に精子が存在しない状態です。精管の発育不全や欠損などの先天的要因や、感染症や外傷、または精管の炎症など後天的要因によって発症します。この障害は、精子が正常に射精されず、妊娠が難しくなる原因となります。

  • 性機能障害

    勃起できずに挿入ができなかったり、勃起はするものの射精がうまくいかない状態を性機能障害といいます。性機能障害には、勃起不全(ED)や射精障害、性欲の低下などが含まれます。男性にとって非常にデリケートな問題であり、心理的な負担をともなうことも多いでしょう。

  • 原因不明不妊

    原因不明不妊は、男性においてもみられる不妊の一因であり、検査をおこなっても明確な理由が特定できない状態です。加齢による精子の質の低下が一因として考えられており、これが妊娠の可能性に影響を与えることがあります。また、ホルモンバランスの乱れや喫煙・飲酒などの生活習慣も、精子の質に影響を及ぼす要因です。

不妊治療の流れとスケジュール

不妊治療の流れ

不妊治療の流れ

初診

まずは、クリニックに電話やオンラインで受診予約をおこないます。予約時には希望する日時や医師の指名を確認しておくとよいでしょう。予約した日時に来院し、受付で必要な書類を提出します。初診では、医師が不妊に関する経歴や症状についてうかがいます。

一般不妊検査

一般不妊検査では、身体的な健康状態や生殖機能を詳しく評価します。月経周期毎の血中ホルモン検査、超音波検査がおこなわれることが一般的です。これにより、卵巣の機能や子宮の状態、排卵の有無などを確認します。また、子宮頸がん検査や尿検査による排卵診断を併せておこなう場合もあります。

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治療開始

初診と一般不妊検査を経て、検査結果から不妊の要因が特定できた場合は、その要因に合わせた治療を開始します。一方で、検査をおこなっても不妊の原因が特定できない場合は、以下の一般的な不妊治療がおこなわれることが多いです。

  • タイミング法(一般不妊治療)

    タイミング法は一般的な不妊治療の一つで、基礎体温表や超音波検査を用いて排卵日を予測し、排卵日の数日前から性交渉をおこなう方法です。 特別な医療行為を必要とせず、自然な形で妊娠を目指すことができます。

  • 人工授精(一般不妊治療)

    人工授精は、男性側の不妊要因が考えられる場合や、タイミング法では妊娠が難しい場合に対して選択されることが多い方法です。採取した精液から運動性のよい精子を取り出し、排卵時期に合わせて子宮内に注入します。これにより、精子が卵子に到達する距離が短縮され、自然妊娠に近い形で受精がおこなわれることになります。手術をともなわないため、身体的な負担が少ない点が特徴です。

  • 体外受精(生殖補助医療)

    体外受精は、女性から卵子を採取し、取り出した卵子を体外で精子と受精させる方法です。受精卵は培養器で育てられ、一定の成長段階に達したあと、女性の子宮内に移植されます。この方法は、卵管に問題がある場合や男性不妊がある場合、または不妊の原因が不明な場合に有効です。妊娠の成功率が比較的高い一方で、身体的・精神的な負担が大きい場合もあります。

  • 顕微授精(生殖補助医療)

    顕微授精は、体外受精の方法の一つで、特に高度な技術を用いた不妊治療法です。採取した卵子に精子を1つ直接注入して受精させることで妊娠を目指します。この方法は、精子の運動性が低い場合や過去に体外受精で成功しなかった場合に対して有効な選択肢となります。精子が卵子に到達するのを待つ必要がないため、より高い確率で受精がおこなわれますが、顕微授精は技術的に高度であり、専門的な医療機関での実施が必要です。

不妊治療の費用は?保険適用になる?

不妊治療にかかる費用は、治療の種類や内容によって大きく異なります。一般的な不妊治療であるタイミング法や人工授精は比較的低コストで済むことが多いですが、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療は、自費診療の場合、1周期30~50万円 年間数百万円に及ぶこともあります。このため、経済的な負担が大きくなることが多いのが実情です。

しかし、2022年4月からは一般不妊治療および生殖補助医療が保険適用となりました。そのため、一定の条件を満たしていれば、治療費の一部を保険でカバーすることが可能です。具体的な条件については、地域や医療機関に確認しましょう。

さらに、高額療養費制度を利用することで、自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超過分が還付される制度も活用できます。また、各自治体では不妊治療に対する助成金を提供している場合も多く、これらの支援を利用することでさらに経済的な負担を軽減することが可能です。

不妊治療で大切なこと

不安があれば早く検査を受けてみる

不妊治療において大切なことの一つは、早期に検査を受けることです。女性の妊娠力は、20代後半から徐々に低下し始め、35歳を過ぎるとその傾向が顕著になります。年齢が上がるにつれて、卵子の質や数が減少し妊娠の可能性が低くなるため、「子どもが欲しいけれど、不妊かもしれない」と感じる場合は、ためらわずに専門医の診察を受けることをおすすめします。

また、男性の生殖機能も年齢とともに衰えていくため、夫婦での検査を受けることが望ましいです。不妊の原因は、女性だけでなく男性にもあることが多く、双方の健康状態を把握することが効果的な治療につながります。

しっかり夫婦で話し合う

不妊治療は、夫婦間でのコミュニケーションが欠かせません。夫婦間で不妊治療に対する考え方や意見が異なる場合、ストレスや衝突が生まれやすくなります。これが原因で治療に対するモチベーションが下がったり、精神的な負担が増したりすることがあるため、定期的に夫婦で話し合い、2人ともが当事者として不妊治療を進めていくことが重要です。

生活習慣を整える

不妊治療において、身体の健康を保つことはとても重要です。喫煙や過度な飲酒、食生活の乱れ、冷え性などは、妊娠に影響を与える要因となり得ます。これらの生活習慣は、ホルモンバランスを崩したり、卵子や精子の質を低下させたりする可能性があるため、治療と並行して見直すことが求められます。

また、不妊治療は身体だけでなく、心の健康も重要です。生活習慣を整えることで身体の状態を改善し、よりよい環境を整えることができます。

不妊治療に関するよくある質問

不妊治療を受ける方は、30代中盤〜後半の方が多い傾向にあります。一方で、保険診療の対象が拡大したことにより、20代で治療を始める方も増えてきています。一般的には、不妊治療を始める理想的な年齢は20代後半から30代前半とされています。

不妊治療にかかる期間は、なかには3ヵ月以内で妊娠に至る方もいれば、2年以上の期間を要する方もいます。このように治療の結果が出るまでの期間はさまざまですが、平均的には約2年とされています。

不妊治療と仕事の両立は多くの方が直面する課題ですが、実際には約50%の方がうまく両立しているというデータがあります。不妊治療と仕事を両立させるためには、自宅や職場から近く、夜間や週末にも診察をおこなっているクリニックを選ぶことが重要です。柔軟な診療時間を提供しているクリニックを利用することで、仕事の合間や休日を利用して治療を受けることが可能になります。
また、最近では不妊治療をサポートする企業が増えてきており、治療のための休暇制度やカウンセリングサービスの提供など、従業員が治療を受けやすい環境を整える取り組みが進んでいます。

監修医師紹介

山本 篤 医師

神奈川レディースクリニック理事長 兼 院長

山本 篤 医師

神奈川レディースクリニックは、2003年の開院以来「無理のない医療」を大切に、患者様に寄り添ってまいりました。私もその理念を受け継ぎつつ、新しい医療の可能性を取り入れ、ご夫婦の未来を支える医療を実践していきたいと考えています。
妊活や不妊治療は目に見えない体の変化に向き合うため、不安を感じることも少なくありません。私は体の中で起きていることや今後の見通しを丁寧にお伝えし、納得感を持って治療に臨んでいただけるよう心がけています。
経験と最新の知見を融合させ、安心できる場で最先端の治療を提供してまいります。どうぞ安心してご相談ください。

経歴

東京大学薬学部薬学科卒
平成17年東京医科歯科大学(現、東京科学大学)卒業
平成17年~19年・27年~29年東京医科歯科大学附属病院周産女性診療科
平成19年~22年・29年~令和2年獨協医科大学付属埼玉医療センター
産婦人科・リプロダクションセンター  講師
平成22年国立成育医療研究センター 不妊診療科
平成22年~27年国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所
東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野 :医学博士学位取得
令和2年~六本木レディースクリニック 神奈川レディースクリニック 勤務
令和7年神奈川レディースクリニック院長就任

資格・所属学会

  • 日本産科婦人科学会 専門医
  • 日本産科婦人科学会 指導医
  • 日本生殖医学会 専門医
  • 日本生殖医学会 指導医
  • 日本性科学会 理事
  • 日本性科学会認定 セックスカウンセラー
  • 日本受精着床学会
  • 日本人類遺伝学会
  • 日本がん・生殖医療学会
  • 日本生殖心理学会
  • 日本生殖医療支援システム研究会
  • 早稲田大学非常勤講師
  • Wellness AP Science 株式会社 医療顧問