人工授精 (AIH) とは?

人工授精(AIH:Artificial Insemination by Husband)は、精子を直接子宮内に注入することで、卵子と精子が出会う確率を高めることを目的としています。軽度の男性不妊や性交障害がある夫婦に適しており、自然妊娠を試みる際のサポートとして位置づけられています。
まず、排卵日を特定するための超音波検査やホルモン検査がおこなわれ、最適なタイミングを見極めます。次に、必要に応じて排卵誘発剤を使用し、卵胞の成長を促します。採精はクリニック内の専用の採精室でおこなわれ、パートナーが提供した精子は精液の質を確認したあと、精子の運動能力や活性を向上させるための特別な処理が施されます。 その後、処理された精子を人工授精用のチューブを用いて子宮内に直接注入します。自然妊娠に近い方法を再現しているので、身体への負担が少ないのが特徴です。人工授精後は、自然妊娠と同様に受精と着床が進行し、妊娠の可能性が期待されます。
人工授精をおこなう回数の目安
1回の人工授精で妊娠する方もいますが、数回おこなう場合もあります。統計的には、人工授精での妊娠は5〜6回目までが最も多く、7〜8回以降の成功率は上がらず横ばいになる傾向があります。
排卵障害や性交障害などが不妊原因の場合は治療効果が期待できますが、原因不明不妊症の場合は効果がありません。 そのため、5〜6回を目安に妊娠に至らない場合、体外受精へのステップアップを含めたお話しもさせていただきます。
人工授精の妊娠率

人工授精の妊娠率は、1周期あたり5〜10%程度です。回数を重ねることで累積妊娠率は上がるものの、40歳未満でも約20%、40歳以上では10〜15%程度 にとどまります。前述のとおり、7〜8回目以降の妊娠率は横ばいに推移し、それ以降の妊娠率の向上は難しいとされています。
人工授精が必要な人と必要がない人は?
人工授精が必要・向いている人
- タイミング療法で妊娠しなかった方
一般的に6回程度試みても妊娠しなかった場合、人工授精へステップアップすることがあります。 - 男性不妊症の場合(軽度の)
精子の数が少ない(乏精子症)、運動率が低い(精子無力症)など、自然妊娠にはやや不利な条件がある場合に有効です。 - フーナーテストの結果から、人工授精が必要と診断された方
精子が子宮内に進めないため、人工授精で直接子宮内に注入することで受精の可能性を高めます。 - 性交不能の場合
勃起障害(ED)、射精障害、性交痛、夫婦の生活リズムが合わないなどで性交が困難な場合に適しています。 - できるだけ早く妊娠したいなど、患者様本人からの希望
年齢的に早めの妊娠を望む方や、不妊期間が長い方にとっても選択肢の一つとなります。
人工授精が不必要・向いていない人
- 精液の所見が良好な方
精子の数や運動率が正常で、女性側にも大きな問題がなければ、まずはタイミング療法での妊娠を目指すのが一般的です。 - 重度の男性不妊症
精子が極端に少なく、動いている精子がほとんどいない場合は、顕微授精(ICSI)が必要になることが多いです。 - 卵管が閉塞、または通りが悪い等の卵管因子
卵管が詰まっている(卵管閉塞)、通りが悪い(卵管狭窄)といった卵管因子があると、人工授精では妊娠が難しいため、体外受精が検討されます。 - 女性の年齢が高い
年齢が高いほど卵子の質が低下し、人工授精での妊娠率も下がるため、早めに体外受精へ進む方が妊娠の可能性を高められる場合があります。 - AMH(抗ミューラー管ホルモン)が低値の方
卵子の残り数を示すAMH値が低い方は、人工授精で時間をかけるよりも、採卵を伴う治療に進んだ方が効率的とされます。
人工授精は、「軽度の男性不妊」や「性交困難」などのケースで有効ですが、卵管因子・重度の男性不妊・高年齢・AMH低値などの場合は、体外受精や顕微授精へのステップアップが望ましいこともあります。
自分に人工授精が必要かどうかは、検査結果や年齢、不妊期間などを総合的に判断する必要があるため、まずは不妊専門クリニックでの検査・相談を受け、最適な治療法を選ぶことが重要です。
人工授精は安全?
人工授精は適切な管理のもとでおこなわれるため、安全性が高いとされています。精液中には精子のほかに白血球、微生物やゴミなどが存在します。これらの成分が母体への感染症などを引き起こす可能性があるため、精液の調整や抗生剤内服により安全管理を十分におこなって施行しております。基本的には強い痛みや副作用はほとんどなく、少量の出血やかゆみ、発疹などのアレルギー反応はまれです。
また、人工授精による胎児異常発生率は、自然妊娠と同じ確率であることが多く、特別なリスクもありません。
人工授精のメリット
自然妊娠に近い
人工授精は、精子を子宮に注入したあとは体内で受精し着床させるため、自然妊娠と同様のプロセスで妊娠を目指せます。
自然妊娠(タイミング療法)に比べて妊娠率が高い
人工授精1回あたりの妊娠率は約5~10%、タイミング療法と比べると約2倍となり、妊娠率は高くなります。
ただし、人工授精は1回で妊娠するケースは多くなく、複数回継続して行うことで妊娠の可能性が高まるといわれています。
身体・費用の負担が比較的小さい
人工授精は、比較的女性の身体に負担が少ないのが特徴です。痛みも少なく麻酔も不要で、精神的な負担も少ないといえます。費用も抑えられるため、不妊治療の中ではチャレンジしやすい方法です。
人工授精の流れ
検査で排卵日を予測
生理9〜12日目頃に超音波検査・尿検査をおこない、排卵日を予想して人工授精の日を決定します。超音波検査では、専用の検査機器を膣に挿入し、超音波で卵胞のサイズや育ち具合を確認することで排卵日を予測します。
薬や注射で卵胞を育てる
排卵遅延や排卵障害・周期が安定しない方には排卵誘発剤を使用して卵胞を育てます。排卵誘発剤は、内服薬・注射薬のいずれかで投与し、卵巣を刺激することで卵胞を育て、排卵を促す役割があります。いくつか種類がありますが、患者さまの状態に合わせて医師が判断します。
※副作用・・・卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠
神奈川レディースクリニック理事長 兼 院長
山本 篤 医師
神奈川レディースクリニックは、2003年の開院以来「無理のない医療」を大切に、患者様に寄り添ってまいりました。私もその理念を受け継ぎつつ、新しい医療の可能性を取り入れ、ご夫婦の未来を支える医療を実践していきたいと考えています。
妊活や不妊治療は目に見えない体の変化に向き合うため、不安を感じることも少なくありません。私は体の中で起きていることや今後の見通しを丁寧にお伝えし、納得感を持って治療に臨んでいただけるよう心がけています。
経験と最新の知見を融合させ、安心できる場で最先端の治療を提供してまいります。どうぞ安心してご相談ください。