胚移植とは?
胚移植は、体外で受精させた精子と卵子の受精卵(胚)を、カテーテル(細い管)を使って子宮の内膜に戻す治療のことを指します。体外受精のプロセスの中で実施される、生殖補助医療(ART)の一つです。
胚が子宮内膜に着床すれば妊娠が成立します。胚移植から約10日後に血液検査で妊娠判定を行います。
体外受精が必要なケースとは?
体外受精は主に以下に該当する方に実施されます。
※胚移植は体外受精の一工程として行われます。
- 人工授精で妊娠しなかった方
- 重度の男性不妊の方
- 卵管因子・免疫性の不妊の方
- 年齢が高い女性(35歳以上)
- 原因不明不妊の方
胚移植ができないケースは?
胚移植では、移植できる受精卵(胚)であること、子宮内膜の環境が整っていることなどが、移植できる条件となります。以下に該当する場合は、胚移植が向かない可能性があります。
- 採卵で成熟した卵子が得られなかった
- 受精卵(胚)が育たなかった
- 採卵周期で卵巣が腫れている
- 子宮内膜の環境が整っていない
自胚移植のメリット
胚移植は、発育した良好な胚を選び、子宮に戻すことで妊娠率を高められるというメリットがあります。
麻酔は不要で痛みもほとんどありません。所要時間は10分程度で、比較的身体に負担が少ない処置になります。
また、卵管が狭い・詰まっている場合や、卵管を切除している場合でも、胚を直接子宮に戻すことで妊娠の可能性が得られるという点も大きな利点です。
胚移植の種類・方法
胚移植にはいくつか選択肢があり、身体の状態や患者様のご要望も踏まえて、最適な方法が選択されます。医療機関によって選択肢は異なりますが、「いつ移植するか」「どの段階の胚を移植するか」によって、主に以下のような方法に分けられます。
- いつ移植するか(凍結の有無)
→ 新鮮胚移植・凍結融解胚移植 - どの段階の胚を移植するか
→ 分割期胚移植・胚盤胞移植・二段階移植
それぞれの胚移植の方法や特徴について解説します。
胚をいつ移植するか(凍結の有無)
新鮮胚移植
新鮮胚移植は、胚を凍結せず採卵と同じ周期で移植する方法です。採卵後2〜3日目に良好な胚を子宮に戻すため、妊娠判定までの期間がスピーディーである点がメリットです。
ただし、採卵後は卵巣の腫れがあったり、ホルモンの乱れで子宮内膜の環境が整っていなかったりするケースがあります。そのため、採卵と同じ周期で行う新鮮胚移植は、凍結保存する場合と比較すると妊娠率が低くなる傾向にあります。
凍結融解胚移植
凍結融解胚移植は、採卵後、発育して得られた胚を一度凍結保存し、別の周期で融解して胚移植する方法です。
採卵によって刺激された卵巣や子宮では、子宮内膜の環境が整っていないケースがあり、着床しづらくなる可能性があります。凍結保存して別の周期に調整し、ベストな状態・タイミングで胚移植ができます。
また、受精卵(胚)をいくつか凍結保存しておくことで、採卵が不要になり、次回の治療負担を軽減するメリットもあります。
凍結融解胚移植では、自然周期(排卵あり)とホルモン補充周期(排卵なし)のいずれかで胚移植を実施します。
自然周期(排卵あり)
自然な排卵に合わせて胚移植のタイミングを決定する方法であり、一般的には排卵日から約5日後に胚移植を行います。
ホルモン補充周期に比べて使用する薬剤が少ないのが特徴です。
身体への負担が比較的少ない方法といえますが、排卵誘発剤や黄体ホルモン補充など、状況に応じて内服薬や注射を用いることもあります。
ホルモン補充周期(排卵なし)
月経中からホルモン剤を投与し、排卵を抑制しつつ子宮内膜を整えて、胚移植日を決定します。膣座薬やテープで黄体ホルモンを補うことで排卵後と同じ状態を作り、子宮内膜を整える方法です。
胚のタイミングと子宮内膜のベストなタイミングを合わせやすいメリットがあります。
どの段階の胚を移植するか
受精卵(胚)を培養し、胚が分割(細胞分裂を繰り返し数を増やすこと)しながら育っていきます。胚は培養した日数によって、分割期胚→桑実胚→胚盤胞となり、どの段階で移植するかによって移植の方法が異なります。
分割期胚移植
分割期胚は受精後2〜3日の受精卵(胚)のことです。初期胚とも呼ばれます。分割期胚移植は、古くから行われている方法で、2〜3日後の良好な分割期胚を選び、子宮へ戻します。
胚盤胞移植
受精卵を5〜6日培養した胚は、胚盤胞と呼ばれます。着床寸前まで成長した胚のことで、分割期胚移植よりも着床率が高いとされています。
二段階胚移植
二段階胚移植は、分割期胚と胚盤胞を同じ周期に二段階に分けて移植する方法です。まず分割期胚を移植することで子宮内膜の刺激になり、次に胚盤胞を移植することで、胚盤胞の着床率が上がるとされています。
分割期胚移植より妊娠率は高いといわれていますが、2つの胚を移植することから、多胎妊娠(双子)の確率が高まります。
移植をサポートする技術
胚移植をサポートする、以下のようなオプション治療(先進医療)を選ぶことで、着床率の向上や不育症の改善につながる場合があります。
- アシステッド・ハッチング
:胚を包む透明帯(卵を覆う薄い膜)をあえて薄くすることで、胚の孵化を助け、着床率を上げる方法 - 高濃度ヒアルロン酸含有培養液
:ヒアルロン酸を培養液として使用し、胚と子宮内膜の接着を促し、着床率を上げる方法 - GM-CSF・ヒアルロン酸含有培養液
:着床障害や初期流産を繰り返す方向けに、流産率の低下や妊娠率の向上を目的とした培養液
胚移植の方法はどのように決まる?
高い妊娠率が期待できることから、最近では凍結融解胚移植が盛んに実施されています。
しかし胚移植の方法は一律ではなく、患者様の身体の状態やこれまでの治療歴、胚の発育状況などを総合的に判断して、医師が最適な方法を提案することが一般的です。
胚には「グレード」がある?
胚は、発育の段階(分割期胚・胚盤胞)に応じて、細胞の数や形の整い具合などから「グレード」と呼ばれる指標で評価されます。グレードは妊娠率にも関係し、質の良い胚から優先的に胚移植が行われます。
なお、胚移植に用いられるのは胚盤胞であることが多く、どの段階の胚を用いるかや、凍結の可否もグレードに基づいて判断されます。
胚移植当日の注意点
胚移植は麻酔も不要な痛みが少ない施術ですが、当日はいくつか注意点があります。
- 移植の方法によっては胚移植の1時間前から尿を溜める必要がある
- お子様連れで通院の方も、胚移植日は一緒に来院できない
- パートナーの立ち会いはできない
- 胚の状態によっては当日に移植が中止となることもある
胚移植前に尿を溜めるのは、超音波検査で移植する位置を確認しやすくするためです。また、人によっては子宮が前屈で傾いているケースがあり、尿を溜めていることで、子宮の角度が緩和されてカテーテルがスムーズに挿入しやすくなります。
また、子宮内膜の状態(特に新鮮胚移植の場合)などによっては、胚移植自体が延期になったり、中止になったりすることがあるため、その場合はあらかじめご説明させていただきます。
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神奈川レディースクリニック理事長 兼 院長
山本 篤 医師
神奈川レディースクリニックは、2003年の開院以来「無理のない医療」を大切に、患者様に寄り添ってまいりました。私もその理念を受け継ぎつつ、新しい医療の可能性を取り入れ、ご夫婦の未来を支える医療を実践していきたいと考えています。
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