体外受精の歴史と進化
体外受精は18世紀に研究が始まり、1978年にイギリスで世界初の体外受精による成功例が報告されました。初の体外受精児「ルイーズ・ブラウン」が誕生したことで体外受精は注目を集め、世界中で多くの研究と技術革新が進められました。
現在では、体外受精は一般的な不妊治療の一つとして広く受け入れられており、年間約8万人の赤ちゃんがこの技術を通じて誕生しています。技術の進化により、成功率も向上し、さまざまな不妊の原因に対応できるようになっています。

体外受精とは、女性の卵子を体外に取り出し(採卵)、男性の精子と一緒にして受精させ、その受精卵を女性の子宮に戻して着床を促す(胚移植)治療法です。生殖補助医療(ART)の一環として位置付けられており、不妊治療のなかでも広く利用されています。
体外受精は、卵管の障害や男性不妊、原因不明の不妊症など、さまざまな不妊の原因に対応することができます。自然妊娠が難しい方たちにとって、希望をもたらす重要な選択肢です。
体外受精は18世紀に研究が始まり、1978年にイギリスで世界初の体外受精による成功例が報告されました。初の体外受精児「ルイーズ・ブラウン」が誕生したことで体外受精は注目を集め、世界中で多くの研究と技術革新が進められました。
現在では、体外受精は一般的な不妊治療の一つとして広く受け入れられており、年間約8万人の赤ちゃんがこの技術を通じて誕生しています。技術の進化により、成功率も向上し、さまざまな不妊の原因に対応できるようになっています。
| 年代 | 成功率(妊娠率) |
|---|---|
| 20~29歳 | 約48% |
| 30~34歳 | 約45% |
| 35~39歳 | 約39% |
| 40代以上 | 約15% |
参考:公益社団法人日本産婦人科学会
「2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」
このデータからも明らかなように、年齢が上がるにつれて体外受精の成功率は低下する傾向にあります。特に40代以上になると、妊娠率は約15%と大幅に減少します。これは、女性の卵子の質や量が年齢とともに変化するためであり、妊娠の可能性が低くなる要因となっています。
| 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 総採卵件数 | 2391 | 2130 | 2324 | 2221 | 1983 |
| 平均採卵個数 | 7.99 | 7.67 | 7.36 | 6.8 | 7.8 |
| 総移植件数(新鮮+融解) | 2883 | 2668 | 2956 | 3016 | 2574 |
| 妊娠件数(新鮮+融解) | 1135 | 1044 | 1214 | 1218 | 1155 |
| 妊娠率(妊娠件数/移植件数) | 39.40% | 39.10% | 41.10% | 40.38% | 44.87% |
| 妊娠件数内の内訳 新鮮胚移植 | 123(23.1%) | 69(19.1%) | 70(18.4%) | 94(23.4%) | 45(27.4%) |
| 融解胚移植 | 1012(43.1%) | 975(42.3%) | 1144(44.4%) | 1124(43.0%) | 1110(46.1%) |
| 流産件数(流産件数/妊娠件数) | 263(23.2%) | 222(21.3%) | 290(23.9%) | 320(26.8%) | 276(23.9%) |
| 分娩件数(分娩件数/移植件数) | 844(29.3%) | 771(27.5%) | 917(31.0%) | 875(29.0%) | 870(33.8%) |
体外受精(ふりかけ法・IVF)は、不妊治療の一環として広く用いられている方法です。
まず卵子をシャーレに取り出し、精液から回収した精子を卵子の上にふりかけます。その後、精子が自らの力で卵子に侵入し、自然に受精するのを待ちます。この方法の正常受精率は、約65〜70%とされています。
体外受精は、卵子が受精のために過度に刺激されることがありません。そのため、卵子が健康で質の高い状態を保つことができ、妊娠の可能性を高める要因となります。また、体外受精では、受精卵の成長を観察し最適なタイミングで胚移植をおこなうことができるため、卵子への負担を最小限に抑えつつ妊娠の確率を高めることが可能です。
しかし、体外受精によって受精が成立しない場合や、精子そのものの力で受精できないと考えられる場合には、顕微授精(ICSI)を検討することが重要です。
顕微授精(ICSI)は、体外受精の一種で、特に精子の運動能力が低い場合や、過去に体外受精で成功しなかったケースにおいて有効な方法です。
顕微鏡のもとで卵子に対して細い針を刺し、健康な精子を1匹直接注入します。この方法により、卵子と精子が確実に接触し、受精がおこなわれます。顕微授精の正常受精率は80%以上とされており、体外受精に比べて高い成功率を誇ります。
卵管性不妊とは、卵管に何らかの障害があるために、卵子と精子が出会うことができず、自然妊娠が困難な状態を指します。卵管が閉塞している、炎症を起こしている、または過去の手術や感染症によって損傷を受けている場合などが原因となります。
このような状況では、卵子が卵管を通過できず、受精がおこなわれることができません。そのため、卵管性不妊の場合は、体外受精が検討される重要なケースとなります。
男性不妊症とは、精子の数や運動能力、形態に問題があるために妊娠が難しい状態を指します。精子の質が低下する原因は多岐にわたり、ホルモンの不均衡、遺伝的要因、生活習慣、感染症などが挙げられます。
男性不妊症に対しては、まず薬物治療やホルモン療法がおこなわれ、精管の閉塞や異常がある場合には手術治療が検討されることもあります。また、人工受精を試みることもありますが、これらの方法で妊娠に至らないケースも少なくありません。このような場合、体外受精が有力な選択肢となります。
免疫性不妊症は、体内の免疫系が精子や受精卵を異物と認識し、攻撃してしまうことによって妊娠が難しくなる状態です。この場合、女性の体内において抗精子抗体が生成され、精子の運動能力や受精能力が阻害されるため、自然妊娠が困難になります。
そのため、免疫性不妊症の方は、免疫系の影響を受けにくく妊娠の可能性を高めることができる体外受精が検討されます。
原因不明不妊症とは、妊娠を希望するパートナー同士が一定期間妊娠を試みても成功せず、さまざまな検査をおこなっても特定の原因が見つからない状態を指します。このようなケースでは明確な原因が特定できないため、治療が難航することがあります。
原因不明不妊症の方は、タイミング法や人工授精でも妊娠に至らなかった場合、体外受精が有力な選択肢となります。
不妊治療の初期段階では、一般的にタイミング法や人工授精が選択されます。人工授精の場合、最大6回まで試みられ、そのなかで妊娠に至る方が多いとされています。しかし、6回を超えると統計的に妊娠の可能性が低下することが示されているため、次の方法として体外受精が検討されることが一般的です。
体外受精を始める前には、不妊の原因や排卵の状態を確認するために、事前検査がおこなわれます。事前検査では、女性側のホルモンバランス、卵巣機能、子宮の状態、卵管の通過性などを調べるために、血液検査や超音波検査、子宮卵管造影検査などが実施されます。また、男性側の精子の質や量を確認するために、精液検査もおこなわれます。
これらの検査結果をもとに、医師は不妊の原因を特定し、最適な治療方法を提案します。
卵巣刺激は、より多くの卵子を十分に成熟させるためにおこなわれます。ホルモン薬を使用して排卵をコントロールし、採卵の準備を進めます。医師は飲み薬や注射によるホルモン治療をおこない、卵巣を刺激して複数の卵子を育てます。通常、自然な月経周期では1つの卵子しか成熟しませんが、体外受精では複数の卵子を同時に成熟させることで、採卵の成功率を高めることができます。
採卵と採精は、月経2〜3日目から卵巣刺激の注射などを行い、卵胞の成熟具合を確認しながら採卵の日程を決定します。個人差はありますが、採卵日はおおむね14日目前後となる方が多いです。
採卵は、排卵日の直前に成熟した卵子を体外に取り出すことが目的です。
超音波ガイド下でおこなわれ、細い針を用いて卵巣から卵子を採取します。そして、同日に採精がおこなわれることで、受精の準備が整います。
※ご主人のご都合がつかない場合には、事前に精子を凍結保存していただいております。
受精では、まず採卵によって取り出された卵子を、培養液のなかで確認します。次に、採精した精子のなかから運動性の高い精子を選別し、卵子と一緒に培養液のなかに置いて自然な受精をおこないます。
受精で得られた受精卵は、受精から5日目頃まで専用の培養液で培養されます。
原則として、1個の胚を子宮内に移植しますが、胚の状態や患者様の希望、都合に合わせて手法を選択します。
分割期胚移植は、受精後2〜3日の段階での初期胚を子宮内に移植する方法です。比較的早い段階で移植をおこなうため、身体への負担が少なく、移植された胚が子宮内での環境に適応しやすいことから妊娠の可能性を高める要因にもなります。
胚盤胞移植は、受精卵を5〜6日間培養し、着床寸前の胚(胚盤胞)を移植する方法です。この段階の胚はより成熟しており、子宮内膜に適応しやすいため、移植あたりの妊娠率は分割期胚移植よりも高いとされています。
二段階移植は、分割期胚と胚盤胞を同じ周期で連続して移植する方法です。この手法は、1回目の移植で分割期胚を子宮内に移植し、その数日後に胚盤胞を移植するという流れでおこなわれます。分割期胚が子宮内膜を刺激することにより、2回目に移植する胚盤胞の着床率を改善する効果があるとされています。
この方法の利点は、移植あたりの妊娠率が分割期胚移植よりも高いことです。しかし、2つの胚を同時に移植するため、双子などの多胎妊娠の確率が高まります。
凍結融解胚移植は、受精卵を凍結保存し、必要な時に融解してから胚移植をおこなう方法です。この方法は、現在の日本で主に用いられており、体外受精の成功率を高めるための重要な手段となっています。
凍結融解胚移植には、「自然周期(排卵あり)」と「ホルモン補充周期(排卵なし)」の2通りのアプローチがあります。自然周期では自然な月経周期に合わせて胚移植をおこない、ホルモン補充周期では、月経中から自然な排卵を抑える薬を投与し、その後黄体ホルモン等の補充により人工的に子宮内膜を作り適切な時期に胚移植を行います。
黄体ホルモン(プロゲステロン)は、女性の月経周期において重要な役割を果たすホルモンで、主に卵巣の黄体から分泌されます。このホルモンは、受精卵が子宮内膜に着床するための適切な環境を整えるために必要不可欠です。
体外受精においては、胚移植後の着床率を高めるために、腟坐薬、注射、貼り薬、内服薬などの方法で黄体ホルモンの補充がおこなわれます。これらの方法を用いることで、体内のホルモンレベルを適切に維持し、胚が着床しやすい環境を整えることが可能です。
妊娠判定は、通常、胚移植から約10日後に血液検査を通じておこなわれます。この検査では、妊娠を示すホルモンであるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の値を測定します。hCGの値が一定の基準を超えると、妊娠の可能性が高いと判断されます。
正確な結果を得るために、判定前に自己判断をせず、必ず判定日には医療機関に来院するようにしましょう。
排卵誘発剤を使用する体外受精のモデルスケジュールを紹介します。
治療スケジュールは、年齢やホルモン状態、精子の状態などによって個別に調整されるため、患者様ごとに最適なプランで進行します。

体外受精は、自然妊娠が難しいケースにおいても妊娠の可能性を大きく広げる治療法です。タイミング法や人工授精といった自然妊娠に近い不妊治療法を試みても妊娠に至らない場合、体外受精は新たな選択肢となります。
体外受精では、卵子と精子を体外で受精させ、受精卵(胚)を子宮に戻すため、妊娠の確率が高まります。また、体外受精では、受精卵の発育状況を確認し、最も適したタイミングで胚移植をおこなうことができるため、妊娠の成功率をさらに高めることが期待されます。
体外受精は、成功率と流産率について理解しておくことが重要です。自然妊娠の場合、流産率は約10〜15%とされていますが、令和 5 年度臨床倫理監理委員会の報告では、体外受精の場合は新鮮胚移植で約24%、凍結胚移植で約25%と、流産率がやや高いことが示されています。
※出典 令和 5 年度臨床倫理監理委員会 登録・調査小委員会報告(2022 年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および2024 年 7 月における登録施設名)
このことは、体外受精が必ずしも成功するわけではないことを意味しており、妊娠が成立した場合でも流産のリスクが存在することを考慮する必要があります。したがって、体外受精を検討する際には、成功率や流産率についての情報を十分に理解し、医療従事者と相談しながら自分たちの状況に合った選択をすることが大切です。
体外受精をおこなう際、排卵誘発剤を使用して卵子を成熟させる処置があります。この排卵誘発にともない、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用が発生するリスクがあります。OHSSは、卵巣が異常に刺激されることによって引き起こされる状態で、卵巣腫大や腹水、腹痛、そして重篤な場合には血栓症などさまざまな症状が現れます。
OHSSのリスクを軽減するためには、医療従事者としっかりコミュニケーションを取り、適切な対策を講じることが大切です。
体外受精は2022年4月から保険適用となり、不妊で悩む方にとって経済的な負担が軽減されることになりました。
ただし、保険適用にはいくつかの条件があります。一般的には、治療開始時において女性の年齢が 43 歳未満であること、卵管性不妊や男性不妊であることなどが挙げられます。また、不妊治療を保険で受けるには、婚姻関係または事実婚であることが条件であるため、体外受精を開始する前に医療機関で確認をする必要があります。
体外受精は、いくつかの副作用やリスクがともないます。重篤な副作用はほとんどないものの、排卵誘発剤の使用で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症したり、卵巣刺激の薬や注射の刺激で腹痛や便秘が起こるリスクがあります。
体外受精の成功率は一人ひとりの状況や年齢、健康状態によって異なります。一般的な傾向として、40歳未満の女性の場合、3〜4回目の治療で妊娠することが多いとされています。もし3〜4回の体外受精を経ても妊娠が確認できない場合は、受精卵が子宮内膜にうまく着床できない着床障害の可能性が考えられます。この場合、医師と相談し、原因を特定するための検査や治療方針の見直しが重要です。
体外受精では、一般的に採血や排卵誘発剤の注射、採卵、胚移植の際に痛みを感じる場合がありますが、強い痛みをともなうことは少ないでしょう。
| 東京大学薬学部薬学科卒 |
| 平成17年東京医科歯科大学(現、東京科学大学)卒業 |
| 平成17年~19年・27年~29年東京医科歯科大学附属病院周産女性診療科 |
| 平成19年~22年・29年~令和2年獨協医科大学付属埼玉医療センター |
| 産婦人科・リプロダクションセンター 講師 |
| 平成22年国立成育医療研究センター 不妊診療科 |
| 平成22年~27年国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所 |
| 東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野 :医学博士学位取得 |
| 令和2年~六本木レディースクリニック 神奈川レディースクリニック 勤務 |
| 令和7年神奈川レディースクリニック院長就任 |
神奈川レディースクリニック理事長 兼 院長
山本 篤 医師
神奈川レディースクリニックは、2003年の開院以来「無理のない医療」を大切に、患者様に寄り添ってまいりました。私もその理念を受け継ぎつつ、新しい医療の可能性を取り入れ、ご夫婦の未来を支える医療を実践していきたいと考えています。
妊活や不妊治療は目に見えない体の変化に向き合うため、不安を感じることも少なくありません。私は体の中で起きていることや今後の見通しを丁寧にお伝えし、納得感を持って治療に臨んでいただけるよう心がけています。
経験と最新の知見を融合させ、安心できる場で最先端の治療を提供してまいります。どうぞ安心してご相談ください。