人工授精 (AIH) とは?

人工授精(AIH:Artificial Insemination by Husband)とは、女性の排卵のタイミングに合わせて、採取した男性の精子を直接子宮内へ注入する不妊治療の一つです。
この方法は、精子が自然な経路よりも卵子に近い位置まで運ばれるため、自然妊娠に比べると妊娠確率を高める効果が期待できます。不妊治療においては、一般的にタイミング法の次にステップアップする治療法として位置付けられています。体外受精などと比べると身体的・経済的な負担が少なく、より自然な形での妊娠を目指せる点が特徴です。
人工授精の成功率について
人工授精の一般的な成功率
人工授精1周期あたりの妊娠率は、5〜10%前後とされています。
この数値は、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療(ART)と比べると、決して高くはありません。しかし、原因不明不妊症の方がご自身でタイミング法をおこなった場合の妊娠率と比較すると、約2倍に相当する確率となります。
人工授精は、タイミング法よりは確率が高まりますが、受精は自然な形でおこなわれるため、成功率には一定の限界があります。
また、患者さまの年齢や不妊の原因、実施回数などによっても大きく変動します。
年齢別の成功率

人工授精の成功率は、女性の年齢が上がるにつれて低下する傾向にあります。これは不妊治療全体に共通することであり、主な原因は「卵子の老化(質の低下)」です。
卵子のもとである原始卵胞は、出生時には約200万個程度ありますが、年齢とともに減少していきます。また、加齢による細胞の老化や生活習慣の乱れによって、卵子の質も低下します。これにより、受精卵ができても正常に着床せず、流産に至ったりするリスクが高まります。
当院における人工授精妊娠率(%)実績(2021〜2024年)
当院における4年間のデータでも、年齢による妊娠率の違いが表れています。
| 年齢 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 総計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 29歳以下 | 7.9% | 10.4% | 8.8% | 9.8% | 9.2% |
| 30〜34歳 | 8.2% | 4.8% | 6.5% | 6.8% | 6.5% |
| 35〜39歳 | 6.4% | 4.9% | 6.6% | 6.6% | 6.1% |
| 40歳以上 | 3.0% | 1.8% | 2.3% | 3.7% | 2.7% |
| 総計 | 6.6% | 4.8% | 5.9% | 6.6% | 6.0% |
29歳以下では9.2%、30〜39歳でも6%以上と、一般データと比べて高い妊娠率を維持していますが、40歳以上になると2.7%まで低下しています。そのため、当院では年齢に合わせたステップアップをご提案しています。
不妊の原因別
人工授精の成功率は、不妊の原因によっても大きく左右されます。
例えば、女性側の頸管粘液の異常や、精子の運動性や数の問題がある軽度の男性不妊の場合、または原因不明不妊の場合は、人工授精が有効な場合があります。
一方で、女性側に卵管閉塞や卵巣機能の低下がある場合、重度の男性不妊の場合は、人工授精では妊娠の可能性が低いです。
人工授精の回数と妊娠確率の関係
人工授精は、不妊治療の初期段階で選択されることが多いですが、1回の人工授精で妊娠する確率は決して高くありません。そのため、多くの場合は数回にわたっておこなわれます。
しかし、回数を重ねれば無制限に確率が上がるわけではありません。日本産婦人科医会のデータによると、妊娠に至ったケースの88.0%が4回以内の人工授精で妊娠していることがわかっています。
また、若年の女性であっても、人工授精を5回以上続けても1回あたりの妊娠率は3〜5%程度にまで低下するとされています※。
そのため、通常5〜6回人工授精をおこなっても妊娠に至らない場合は、より高度な生殖補助医療である体外受精(IVF)へのステップアップを検討すべきです。
※参考:公益社団法人日本産婦人科医学会「10.人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)」
人工授精の成功率を高める方法
人工授精が必要・向いている人
不妊の可能性は誰にでもあります。
厚生労働省の調査によると39.2%の夫婦は不妊について心配したことがあり、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある、もしくは現在受けている夫婦は4.4組に1組と報告されています※。
不妊の原因はさまざまですが、女性側だけに原因があるわけではありません。女性と男性のどちらか、もしくは両方に原因がある場合があり、その割合はほぼ半々であるといわれています。
そのため、不妊治療を始めるにあたっては、女性だけでなく男性も一緒に、早めに検査を受けることが重要です。夫婦ともに検査を受けることで、原因を正確かつ早期に特定できます。
※参考:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」
排卵誘発剤を使用する
排卵誘発剤は、人工授精の成功率を高めるための有効な手段の一つです。
人工授精は、排卵の直前におこなうことで最も成功率が高まりますが、自然な周期ではそのタイミングを見極めるのが難しい場合があります。
排卵誘発剤は、卵巣を刺激して排卵を促すことで、排卵日を正確に予測しやすくなります。最適なタイミングで人工授精を実施できるようになるため、結果的に妊娠成功率を高めることができるのです。
ただし、副作用として、卵巣が腫れる「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」や、複数の卵胞が同時に成熟することによる多胎妊娠のリスクがあります。医師と十分に相談したうえで、慎重におこなうようにしましょう。
精子や卵子の質を高める
人工授精の成功率を高めるためには、治療と並行して、精子や卵子の質そのものを向上させることが大切です。
まず基本となるのが、栄養バランスの取れた食事です。食生活を見直すことで体内のホルモンバランスが整い、精子や卵子がよりよい状態で成熟するのを助けることができます。
また、不妊治療の検査で、精子の質に影響を与える治療可能な疾患が見つかることがあります。このような疾患に対して適切な治療をおこなうことで、精子の質が大幅に改善され、人工授精の成功率向上につながります。
ステップアップを適切なタイミングでおこなう
不妊治療は、原因や状況に応じて最も負担の少ない治療から開始することが一般的です。
治療の基本的な流れは、タイミング法→人工授精→体外受精・顕微授精の順番で、段階的にステップアップしていきます。
ある治療を一定期間おこなっても妊娠に至らない場合は、次の治療へ移り、段階的に治療方法を変えていく必要があります。適切なタイミングでステップアップすることで、妊娠の可能性を高めることができます。
生活習慣を改善する
生活習慣は妊娠率にも影響を与えるため、妊娠に向けた身体づくりのためには、良質の睡眠をとり、規則正しい生活を送ることが大切です。
睡眠不足や不規則な生活は、ホルモンバランスの乱れにつながります。また、適度な運動を心掛け、血行を促進しストレスを解消することも有効です。そして、食生活を改善し、栄養バランスの取れた食事を意識的に摂取することで、精子や卵子の質を高めることにつながります。これらの生活習慣の改善は、治療の効果を高め、心身ともに健康な状態で妊娠に臨むための土台となります。
人工授精のメリットとデメリット
人工授精の大きなメリットは、費用面や身体的負担の少なさです。
体外受精などに比べて費用が安価であり、処置時間が短く痛みも少ないため、精神的・身体的な負担が少ない状態で治療を進めることができます。自然妊娠に近い形での治療を望む方にとっても、受け入れやすい方法です。
一方で、成功率の低さや年齢による課題も存在します。前述のとおり、1回あたりの妊娠率は約5〜10%と決して高くはありません。若い年齢であれば妊娠する可能性が高まる傾向にありますが、40歳以上になると卵子の質の低下にともない妊娠率はさらに低下します。 そのため、年齢や不妊原因に応じた適切な治療選択が重要となります。
人工授精の流れと費用
診察・検査
まずは、診察と検査から始まります。
生理9~12日目頃に超音波検査をおこない、卵巣内の卵胞の大きさや子宮内膜の状態を確認します。あわせて尿検査もおこない、黄体形成ホルモンの値を測定することで、排卵が近づいているかどうかを判断します。
これらの検査結果をもとに、最も妊娠の可能性が高いと予想される排卵の直前のタイミングで、人工授精の日を決定します。
排卵誘発
超音波検査などで卵胞の発育が遅いと判断された場合や、排卵のタイミングをより正確にコントロールしたい場合に、排卵誘発剤を使用して卵胞を育てます。これにより、複数の卵子を成熟させたり、排卵のタイミングを予測しやすくしたりします。
卵胞が十分に育った段階で、必要に応じて注射薬や点鼻薬などを使用して、排卵を促進させます。
採精
人工授精の実施時間に合わせて、ご自宅やクリニック内の専用採精室で精液を採取していただきます。
人工授精
エコーで卵胞を確認したあと、洗浄・濃縮した精液を人工授精用のチューブを使って、子宮の奥に注入します。
保険診療適用
5,460円
自費診療適用
18,050円
※再診料、超音波検査、注射代、薬代として別途3,000円前後の費用がかかります。
自費診療は全て税込価格です。
費用は予告なく変更される場合があります。
妊娠判定
人工授精後に生理が遅れた場合は、ご自身で検査薬を使用して妊娠を確認し、1週間後に来院してください。
判定日を待たずに生理が来てしまった場合は、医師の指示通りの日程で来院してください。
人工授精に関するよくある質問
人工授精の1回あたりの成功率は、約5〜10%程度です。ただし、年齢や不妊原因によって変動します。
人工授精で妊娠した例の88.0%が、4回以内で妊娠しているというデータがあります。そのため、まずはこの回数を目安に治療を進めることが推奨されます。
精子の状態をよくするためには、栄養バランスのよい食事と、十分な睡眠時間の確保が重要です。
また、採取時の精子の濃度や運動率を最適な状態に保つため、精子を採取する前日の性行為は控えましょう。
人工授精を5〜6回程度おこなっても妊娠に至らない場合は、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった生殖補助医療へのステップアップが検討されます。
また、卵管不妊症の場合、先に卵管鏡下卵管形成術などの手術をおこなうことがあります。手術によって卵管が開通したあと、半年〜1年経過しても妊娠しない場合は、やはり体外受精や顕微授精へのステップアップが推奨されます。
生殖補助医療(体外受精・顕微授精・胚移植)について>
人工授精について詳しくはこちら
監修医師紹介
経歴
| 東京大学薬学部薬学科卒 |
| 平成17年東京医科歯科大学(現、東京科学大学)卒業 |
| 平成17年~19年・27年~29年東京医科歯科大学附属病院周産女性診療科 |
| 平成19年~22年・29年~令和2年獨協医科大学付属埼玉医療センター |
| 産婦人科・リプロダクションセンター 講師 |
| 平成22年国立成育医療研究センター 不妊診療科 |
| 平成22年~27年国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所 |
| 東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野 :医学博士学位取得 |
| 令和2年~六本木レディースクリニック 神奈川レディースクリニック 勤務 |
| 令和7年神奈川レディースクリニック院長就任 |
資格・所属学会
- 日本産科婦人科学会 専門医
- 日本産科婦人科学会 指導医
- 日本生殖医学会 専門医
- 日本生殖医学会 指導医
- 日本性科学会 理事
- 日本性科学会認定 セックスカウンセラー
- 日本受精着床学会
- 日本人類遺伝学会
- 日本がん・生殖医療学会
- 日本生殖心理学会
- 日本生殖医療支援システム研究会
- 早稲田大学非常勤講師
- Wellness AP Science 株式会社 医療顧問
神奈川レディースクリニック理事長 兼 院長
山本 篤 医師
神奈川レディースクリニックは、2003年の開院以来「無理のない医療」を大切に、患者様に寄り添ってまいりました。私もその理念を受け継ぎつつ、新しい医療の可能性を取り入れ、ご夫婦の未来を支える医療を実践していきたいと考えています。
妊活や不妊治療は目に見えない体の変化に向き合うため、不安を感じることも少なくありません。私は体の中で起きていることや今後の見通しを丁寧にお伝えし、納得感を持って治療に臨んでいただけるよう心がけています。
経験と最新の知見を融合させ、安心できる場で最先端の治療を提供してまいります。どうぞ安心してご相談ください。